氣と意識
気功の世界に「上虚下実」という言葉がある。
頭ではなく、腹に氣が満ちている状態を言う。
日本人は、元来、腹民族と言われてきた。
それは、氣が腹に落ちている状態が自然だという意味であろう。
実際、日本語には、
「腹落ち」
「腹が立つ」
「腹に据えかねる」
など、腹にまつわる慣用句が多いことからも、腹の感覚を大切にしてきた文化的背景があると言える。
一方、西洋人は頭に気が集中している。
街を歩く西洋人を見れば一目瞭然である。
最近は、西洋人のような気の状態の日本人の方が多くなってしまった。
しかし、武道などを長くしっかりやっている人は、やはり腹に氣が満ちている。
服は身体をコントロールする
それなりに立場がある人間であっても「肚が座っている」と感じる日本人は残念ながら少ない。
老人のような物言いで恐縮だが、頭だけ、口先だけの日本人が増えたのは、洋服を着るようになったからではないかと考えている。
グローバリストによる国家転覆を喰らった明治以降そうなったのであり、タイミング的に合致するのだ。
さて、和服は帯を締める。
腹が出ている人は別として、腹圧をかけていないと帯が上に上がってきてしまう。
また、鼻緒のある履物を履く。
爪先を意識していないと履物が脱げてしまう。
つまり、和の装いは、日常生活をしているだけで、氣が下に降りるようにできているのだ。
一方、洋服や靴は、身体への意識がお留守でも普通に着ていられる。
ビジネスマンは1日中何かを考えていることが多い。
かてて加えて、昨今は、スマホやPC等の視覚に頼る電子デバイスを多用する。
従って、どうしても、頭部に意識が集中しやすい。
洋の東西を問わず、人間は、身につける物によって、身体をコントロールされてしまうのだ。
であるならば、日本人として、自然な体のあり方に導いてくれる和服を身に付けるべきであろうと私は思う。
同じ服を買うならば、日本の伝統技術の担い手にお金を落としたいとの氣持ちもある。
だから、私は声を大にして、「日本人なら和服を着ろ」と言いたい。
上虚下実の状態になれば、心身が共に安定し、氣力が満ちてくる。
そのような状態が自動的に得られるのだから、日常の不便さという和服のデメリットをカバーして余りある。
実はハードルは低い
女性はそうはいかないが、男性なら、慣れれば5分もあれば着ることができる。
それに、中古ならば、1万円前後で手に入る。
それでは反物の生産者にお金が落ちないではないか?
と思うなら、新品の反物を買って仕立てればいい。
中古を買ったとしても、和裁屋さんや洗張屋さん、履物や帯などの生産者さん達にはお金が落ちる。
日本の伝統産業の保護に少しでも貢献していると思ったら、氣持ちが良いではないか。
たとえば、私も時々利用させていただくシンエイさんは、精力的に中古の着物を販売しておられる。
まずは中古でも良いから気に入った和服を買ってみてほしい。
採寸の仕方や着方は、ググればいくらでも出てくる。
とにもかくにも、一度和服生活をしてみて、祖先が伝えてきてくれた民族としての本来の感性を多くの日本人に取り戻していただきたい。