山先達曰く、大峰に何十回も登拝したことがある方でも、前鬼にも来たことがある人は稀らしい。
行場には、2日連続で晴れの日が続かないと立ち入ることができないそうな。
前鬼は、日本でもトップレベルに降雨量の多い大台ヶ原のすぐ西に位置している。
つまり、2日連続で晴れが続く自体極めてラッキーでありがたいことなのだ。
前鬼修行の眼目
山先達曰く、大峰で表裏の行を満行することは金剛界での生まれ変わりで、前鬼の行は胎蔵界での生まれ変わりとのこと。
大峰で清めた器に、前鬼で山の精霊が入ってくる建て付けになっているそうだ。
閼伽坂峠
小仲坊の裏庭的な場所を抜けて、大峰奥駈道とは別の方向に向かっていった先にある。
ここまではひたすら登りで、小休止の場。
ここから川までひたすら下り。
十六羅漢
行場に立ち入ることができても、岩石群や孔雀岳がはっきり見えることは、これまた稀らしい。
今回は諸々恵まれている。
道すがら小さな沢が2つほどある。
その2つ目の水は、極めておいしかった。
飲んだ瞬間すーっと体に染み渡る。
むしろ、何かを飲み込んだ感じがしない。
普段飲んでいる水は一体何なんだろうと思うほど。
垢離取場
沢登りをしていると思われる先客がいたが、行に入る時に場所を譲ってくれた。
岩場は、極めて滑りやすく、それなりの身のこなしを求められる。
山先達の奥様が、神道系の禊ぎ祓いをしてくださった後、皆で水に入り振魂。
季節柄か、水は冷たくない。
その間、山先達は川の対岸で何かを延々と詠唱していたが、水音で声は聞こえない。
事前に山先達から、水に浸かっている間、水と自分が一体になるような感覚が訪れると伺っていたが、本当だった。
まるで、体がなくなってしまったかのように自らと外界の境界を失う。
目は開いているが、瞑想の入り口で感じる感覚に近い。
水から上がると、何かに満たされた充実感と多幸感があった。
今回は、天の二十八宿には行くことができなかったが、いずれ伺ってみたい。
携帯の電波が全く入らないお陰か、人の思念などに邪魔されない静寂の山。
まさに精霊や天地の氣に満たされた土地。
このような来ること自体が困難な秘境の地が、日本国内にも残されているのだ。
聖地中の聖地と言われるそうだが、それも頷ける。
大峰登拝の後、この地に来て得られるものはとてつもなく大きいと確信する。
国家転覆の担い手である明治政府がなぜ廃仏毀釈とともに修験道を禁じたのか、なんとなくわかった気がした。
なんとかして我々の手で、次世代に継承していかなければならない。